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山下三千夫 海との語らい展

 私は 1948 年 坊津町久志(現在南さつま市坊津町)に生まれました。 坊津は奈良時代から海の玄関として、中国から鑑真を初め大勢の僧侶 が来航して宗教と文化を伝え、東南アジアから豊富な物資がもたらさ れ、繫栄した港です。 

私が物心つく頃には。人々が狭い地域の中で片寄せあって暮らす漁村 でした。 

陸地では自給自足の農業もしていましたが、子供たちの目は海の方ば かり向いていたように思えます。 

戦後大人たちは先の見えない不安の中で、がむしゃらに働き、裸の人 間の生きざまを見せていました。私たちも漁の手伝いに駆り出され、 大人の役に立てたことを自慢していたものです。魚や動物たちとの触 れ合いは現在とはまったく違った価値観の中にありました。 私たちにとって海はなんでもかなえてくれる楽しい所だったのです。 東シナ海は大きな庭であり、坊津は人が帰ってくる所、物が運ばれて くる豊かな所と、誰から教えられるでもなく理解していたようです。 活気にあふれていた漁村は後継者もなく、小さな船だまりも静かに佇 んでいます。 

今思えばすべてがファンタジーの世界のようです。 

ふる里の海は心の鏡として、70 年を経た今も静かに語りかけて来ます。

 

山下三千夫

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